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宇都宮家庭裁判所 昭和47年(家)1565号 審判

後見人 中山康弘(仮名)

被後見人 大沢幸夫(仮名) 昭三五・八・二九生 外一名

主文

後見人中山康弘が被後見人大沢幸夫及び被後見人大沢俊男の後見人たることを解任する。

理由

本件記録の当裁判所家庭裁判所調査官の報告書並びにその後の調査報告書、当庁昭和四四年(家)第八一一、八一二号、同昭和四五年(家)第三六一、三六二号各後見人選任申立事件記録添付の戸籍謄本、当裁判所家庭裁判所調査官の調査報告書、及び中山康弘に対する審問の結果を総合すると次の事実が認められる。

即ち後見人中山康弘は被後見人らの父であり、被後見人らの母大沢なつ子と昭和三九年九月一八日調停により離婚、被後見人らは親権者を母大沢なつ子と定められ母のもとに引き取られ養育されていたが、母なつ子は昭和四四年六月一〇日交通事故死したため、その損害賠償金受領手続の必要のため昭和四六年四月二〇日付当裁判所により父中山康弘が後見人に選任され就職したものであるが、その賠償金の管理のため次のような遵守事項を命ぜられ且つ当裁判所の後見監督処分に付されていたものである。

即ち被後見人らの受領すべき賠償金一三三万二六一八円は宇都宮市所在株式会社○○銀行○○支店において受領し、うち一二〇万円は被後見人らの法定代理人として、後見人中山康弘名義として同行の定期預金とし、払戻しには当庁調査官の認印を必要とし、証書は当庁調査官が管理すること。残一三万二六一八円は被後見人らの当座の生活費および教育費に当てるため後見人中山康弘名義の普通預金とし、前記定期預金の利子も普通預金に入れることとした。

当庁において上記のように後見人監督の処置に出た理由は次の通りである。後見人中山康弘は身体障害者で十分な労働能力を具えないところから神道大教○○大神の布教師(神札売)をしているが生活は楽でなく家賃も滞り勝でありながら酒を好み、性短慮で子女の監護養育に関心うすく長女ひろ子は学校で問題児とされているもので父親からしばしば暴力を揮われ顔面に皮下出血の傷害を受けたこと、食事を与えられなかつたこと、家出をして附近の物置で野宿したこと等があつて児童虐待が問題となり同女は父親から取上げられ施設に収容されたことがありその頃長男一男も近所から物を盗みまわると施設に収容されていたが長女ひろ子には家事の手伝をさせることができるため長男一男の収容には異議を述べなかつたが宇都宮中央児童相談所に深夜飲酒の上長女を返せと押しかけ暴行に及んだことがある。先妻が死亡すると被後見人等を引取り右児童相談所に出頭して二児を収容して欲しいと申出たが後見人以外の者の申出として拒絶された。ところが先妻の死亡が交通事故によるもので保険金が事件本人等にも支払われることが判明しその受額には後見人に就任する必要があることを知ると事件本人等を手許におき当庁に自己を適任者として選任の申立てをした。当裁判所は調査をすすめるうち右事情が判明し尚中山康弘の保険金の使用計画が不相当で申立人が必ずしも後見人適任者でなく他に適任者を探した。然し申立人の性格を知る者は就任を拒絶する有様で申立人は手続がおそいと立腹し事件本人等の面倒を見ないとその申立を取下げたが再度申立をし心を入れかえて被後見人等の監護養育に努めると共に保険金は事件本人等のために使うと誓うので他に後見人となるべき適当な者も見当らないので前記のような条件を附して後見人に選任し当庁は監督を継続して行つたものである。然し右の誓約にも拘らず監護の適切を欠き被後見人等は間もなく施設に収容されてしまつた。即ち被後見人大沢幸夫は昭和四五年六月から栃木県△△学園に入園中であり、同大沢俊男は聾唖者で昭和四七年一月一七日より栃木県立○○学園に入園中でありそれぞれ被後見人らの教護費及び負担金を納入すべきところ、○○学園には昭和四六年七月分より月額一、二〇〇円を現在に至るまで、△△学園には認定により本年七月より月額一、四〇〇円を納入することに定められたが、いずれも納入せず、それらの教育費に充てるべき前記○○銀行○○支店預入れの普通預金一三万二、六一八円は昭和四六年八月に全額払戻して自己の生活費に費消し、定期預金一二〇万円の満期による利子五万八、〇〇〇円余も本年八月一五日払戻し、前記同様費消している。

各学園からの被後見人らの教護費又は負担金の請求に対しては裁判所に請求せよと言い、当庁調査官の面接による調査に対しては夏期休暇は被後見人らが帰宅した一〇日間の生活費に充当したと述べ、また自分は後見人になるつもりはなかつた。母親が死んだから父である自分に子を押しつけるとは虫が良過ぎる。被後見人らの賠償金目当てに後見人になつたのではない旨述べている。

以上の事実は後見人中山康弘が被後見人らに対する後見事務を行う意思がなく殊に被後見人らの財産管理について民法第八四五条に言う後見の任務に適しない理由があるときに該当するものと認められるのでこれを解任するのを相当とし主文のとおり審判する。

(家事審判官 大久保浩)

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